
小惑星探査機「はやぶさ2」— ミッションの概要
JAXAが開発した探査機「はやぶさ2」は、2014年12月3日にH-IIAロケットで打ち上げられました。目的地は、地球近傍を周回する小惑星162173 リュウグウ(Ryugu)です。リュウグウという名は、日本の昔話「浦島太郎」に登場する竜宮城に由来しています。遠い小惑星に日本の昔話の名がついているというだけで、筆者はこの探査機のログを追うのが少し楽しくなります。
約3年半の航行ののち、はやぶさ2は2018年6月27日にリュウグウへ到着しました。直径約900メートルの小さな天体を1年半以上かけて調査し、2度のタッチダウン(着地)によってサンプルを採取しました。
| イベント | 日付 | 概要 |
|---|---|---|
| 打ち上げ | 2014年12月3日 | H-IIAロケット26号機による打ち上げ(種子島宇宙センター) |
| リュウグウ到着 | 2018年6月27日 | 小惑星162173リュウグウに近傍到着 |
| 第1回タッチダウン | 2019年2月22日 | 表面試料の採取に成功 |
| 人工クレーター作成 | 2019年4月5日 | 小型衝突装置(SCI)で地下物質を露出させる実験 |
| 第2回タッチダウン | 2019年7月11日 | 人工クレーター付近で地下物質の採取に成功 |
| カプセル帰還 | 2020年12月6日 | オーストラリア・ウーメラ砂漠に帰還カプセルが着地 |
2度のタッチダウンでは、地表の試料だけでなく、人工的に作ったクレーターを利用して宇宙線にさらされていない地下の物質も採取しました。この点が、初代「はやぶさ」(小惑星イトカワ)との大きな違いです。太陽風や宇宙線の影響を受けていない物質を地球に持ち帰ることで、小惑星が本来持っている組成をより正確に調べられると考えられていました。
リュウグウとはどんな天体か
リュウグウはC型小惑星に分類されます。C型は炭素質の物質を多く含むとされ、太陽系の小惑星の中でも最も一般的なタイプの一つです。水や有機物を保持している可能性が高いと考えられていたため、はやぶさ2のミッションで目的地として選ばれました。
リュウグウの形状は独特で、赤道付近が膨らんだ「コマ型(またはダイヤモンド型)」をしています。表面は岩だらけで、その岩塊が想定以上に多孔質であることが現地観測で分かりました。JAXAが紹介した査読論文(Shimaki et al. 2020, Icarus)によれば、熱慣性の測定から表面の岩塊は「スカスカ」と表現されるほど空隙に富み、密度が低いと見積もられています。
帰還カプセルが届けたもの
回収されたカプセルの中には、合計約5.4グラムの試料が入っていました。このうち表面試料と地下試料はコンテナを分けて保管されており、それぞれの分析が進められました。
JAXA公式発表および査読論文で確認されている主な成果を挙げます(詳細は最新の公式発表・論文をご確認ください)。
- 含水鉱物の確認:かつてリュウグウに液体の水が存在した、あるいは水と岩石の反応が起きたことを示す鉱物が検出されました。
- 有機物の検出:炭素を含む有機化合物が試料中に存在することが確認されました。
- 23種類のアミノ酸の検出:2022年6月に発表された分析(Proceedings of the Japan Academy, Series B/日本学士院紀要 掲載論文)では、試料から23種(異性体を含む)のアミノ酸が検出されたことが報告されました。アミノ酸はタンパク質の構成要素であり、生命活動に不可欠な分子です。
「生命の起源の証拠」としての解釈には注意が必要です
アミノ酸が検出されたことは重要な発見ですが、「リュウグウが地球に生命の材料を運んだ」という直接的な証拠とは現時点では言えません。宇宙空間でのアミノ酸合成プロセス、地球への輸送経路、地球上での生命誕生との関連など、多くの段階にわたる研究が必要です。公式発表では、この発見が「太陽系初期の有機化学進化を理解するための重要なデータ」であるとされています。
試料の分析は継続中であり、国内外の研究機関と共同で行われています。今後も新たな成果が発表される見込みがあります。最新の分析結果については、JAXA公式サイトおよび宇宙科学研究所(ISAS)の発表をご参照ください。
小惑星が保存する46億年前の記録
なぜ小惑星の試料が価値を持つのでしょうか。それは、小惑星が太陽系形成初期の物質をほぼそのままの状態で保存している可能性があるからです。
地球・月・火星といった惑星は、誕生から46億年の間に内部の熱や火山活動、水の作用、プレートテクトニクスによって大きく変化しています。初期の太陽系がどんな物質でできていたかを、地球上の岩石だけから読み取るのは容易ではありません。
一方で、リュウグウのような小惑星は内部の活動が乏しく、太陽系形成から間もない頃の化学組成を保持していると考えられています。C型小惑星の試料は、いわば46億年前の太陽系の記録です。太陽系が生まれたころの物質を、いまこの手が届く実験室で調べられること自体に、筆者は静かな驚きを覚えており、その意義は宇宙科学の研究者が広く認めるところです。
「炭素質コンドライト」との比較
地球には宇宙から落ちてきた隕石が毎年多数降っており、その中に「炭素質コンドライト」と呼ばれる種類があります。これはリュウグウと同じくC型小惑星に由来すると考えられていますが、大気圏突入の熱や地上での風化による変質が避けられません。はやぶさ2が持ち帰った試料は、そうした変質を最小限に抑えた状態で得られた点が研究者から高く評価されています。
はやぶさ2の次の旅先
2020年12月にカプセルを地球へ切り離した後、はやぶさ2本体は地球を通過してそのまま宇宙へ飛んでいきました。機体に余裕があったため、延長ミッションが計画されています。
延長ミッションの最初の探査対象は小惑星「トリフネ」(98943 Torifune、旧仮符号 2001 CC21)でした。JAXAの発表によれば、はやぶさ2は2026年7月5日18時30分(日本時間)にトリフネのフライバイに成功し、光学航法カメラ(ONC-T)と中間赤外カメラ(TIR)による撮像を行っています。
最終的な目標は小惑星1998 KY26で、JAXAはこの天体への到着を2031年7月と見込んでいます。長らく直径約30メートル(30±10メートル)と推定されてきた天体ですが、2025年に発表された地上望遠鏡による観測で直径は約11メートル(11±2メートル)へと大きく下方修正され、自転周期も約5.35分と、従来推定のおよそ倍の速さで回っていることが示されました。ごく小さな天体であることに変わりはなく、むしろ以前考えられていたよりも小さく、速く回っている相手ということになります(ミッション計画の詳細や状況については、最新の公式発表をご確認ください)。
初代はやぶさ(2003年打ち上げ、2010年帰還)が世界で初めて小惑星からの試料採取に成功して以来、JAXAのサンプルリターン技術は国際的に高い評価を受けています。はやぶさ2はその技術をさらに発展させ、複数の探査・衝突実験・地下試料採取を組み合わせた複合的なミッションを達成しました。一つの探査機がここまでの記録を残していく過程を追いかけていると、筆者はしばしばちょっとした感慨を覚えます。
夜空を眺めながら流れ星の正体を考えたくなった方は、流れ星を見に行く夜のために — 流星群観測ガイドも参考にしてください。流星も宇宙の塵が大気圏に突入する現象であり、宇宙の物質が私たちの近くまで届いているという点ではリュウグウの試料と通じるものがあります。また、望遠鏡で実際に夜空を見てみたい方は、はじめての天体望遠鏡 — 目的・種類・予算の選び方をご覧ください。
参考 · JAXA はやぶさ2公式サイト · 宇宙科学研究所(ISAS)